天天晴天:台湾ドラマと中華なドラマ

台湾ドラマや中華なドラマの感想を書いています。吳慷仁が好きです。

「一把青」:郭軫6

「郭軫5」のつづきです。

具体的な内容に触れていますので、ご承知の上でご覧ください。

 

ずっと、自分は必ず戻るから遺書は書かない、と言っていた郭軫が、最後に出発する前に、あのメモの裏に遺書を書きます。

飛行機の中で朱青の写真に向かい、怒るなよ、と言って切り出し、老いるまで生涯を共にするというのは表だけ、裏に君に伝えることがあると、「算是有始有終了」と語りかけます。郭軫は、必ず帰る、という思いでいたことでしょう。「交接」という言葉を口にした小顧に殺気立って殴りかかり、必ず帰ると強く言う様子からは、どれだけ彼が帰りたいと願っているか痛いほどに伝わります。でも、一方で、帰れないことを予感していたのであろう郭軫。遺書の内容は、まだわかりません。自分が帰れないと思った時、郭軫は、朱青に何を伝えようとするのでしょうか。手放し、手放させることで彼女を守ろうとするのか、あるいは別の思いなのか。朱青が送った遺書の用紙ではなく、あのメモの裏にしたためたことにも意味があるのでしょう。この辺りは、これから先の物語の中で見ていきたいです。

 

そして、このメモを託されるのは小顧です。

彼は、朱青を自分のものだと言い張り、郭軫と朱青の子供の命をも奪った後輩で、郭軫が決して許すはずのない相手です。そんな相手に、郭軫は自分の遺書を託します。郭軫と同じようにメモを書き、朱青を思っていても、小顧の思いは少年の夢に過ぎず、朱青と固く結ばれ、飛行員としても優秀な郭軫とでは、すべてにおいてあまりに差があります。まったく相手にならない小顧ですが、朱青の様子を小顧の口から聞く郭軫と、彼に真面目に答える小顧を見ていると、二人が朱青への思いを共有しているようにも見えます。ひとり残される朱青を守りたい郭軫は、小顧の朱青への思いに託したのかもしれません。

 

郭軫が飛行機を操縦しながら、朱青を好きかと小顧に尋ね、好きなら翼を揺らせと言うと小顧がばか正直に翼を揺らすというシーンが、郭軫の死後に登場します。このとき郭軫は、お前の答えは気に入らないと言って銃撃するのですが、そのあと、命は残しておいてやるから渡すべき時にはちゃんとメッセージを渡せといった内容のことを言い渡し、我走了、と言って去っていきます。この場面は、小顧の夢なのか、あるいは現実なのか。テントで眠る小顧のもとにメモを置いて発っていく郭軫も、現実とも魂とも取れる様子で、いくつかの解釈の余地があると思います。ただ、いずれにしても、郭軫の思いや、郭軫と小顧の関係が象徴されたシーンで、とても印象深いです。

 

亡くなった夫に代わり「他願意」と答えて祈りを捧げた朱青。

許せない相手の朱青への思いに託した郭軫。

この二人がお互いを思う心がどのような現実になっていくのか。

東北に郭軫を探しに行った朱青は、513のもとに辿り着いたものの、戦犯として監視下で晒されている彼の物を持ち帰ることはできず、代わりに、持っていた写真を彼のもとに残します。これは、あたかも帰れない郭軫のもとに自分も残ることによって二人で一緒にいようとするかのようでもありました。郭軫のもとにある朱青が、郭軫のいない現実をどのように過ごしていくのか、残り10話を見守るような気持ちです。

 

視聴前は、郭軫のような役を演じることでさらに発展した吳慷仁が見られることへの期待が大きく、吳慷仁を見る思いでいましたが、今は、郭軫がドラマの世界を超えて実際に存在しているかのように感じられ、気持ちが向くのも、吳慷仁というより、郭軫です。

もし、郭軫をもっと大柄で見るからに華やかな人が演じたら、序盤は吳慷仁よりもはまったかもしれないと思います。でも、郭軫は、単純に魅力的な男性ではありません。そして、表の華やかさと内なる不安といったような、二面性とも異なります。繊細さ、内なる冷静さと聡明さ、自信、激しさ、不安定さ、大胆さ、儚さ、そういった複雑で矛盾する内面を持ち、時と共に変化していきます。吳慷仁は、そんな郭軫の内面を観る側の心に深く伝え、変化しながらも、郭軫というひとりの人物としての一貫性を感じさせてくれました。この多面性と変化がある中での一貫性は、郭軫のリアルな存在感につながったと思います。吳慷仁の郭軫には、独特な魅力と存在感があり、郭軫の心の中での残り方もちょっと特別です。