天天晴天:台湾ドラマと中華なドラマ

台湾ドラマや中華なドラマの感想を書いています。吳慷仁が好きです。

「皇帝の恋 寂寞の庭に春暮れて」第40話(最終話)

「皇帝の恋 寂寞の庭に春暮れて」(寂寞空庭春欲晚)、第40話(最終回)。

 

読み物が話の終焉を迎えるような、そんな最終回。このドラマの英題が「Chronicle of Life」なのですが、この英題に合った終わり方でした。

 

主人公の立場が皇帝であったからこその物語であり、彼が愛というよりも恋に落ちたという意味では、邦題の「皇帝の恋」はとてもしっくり来ます。

 

それでいて、角度を変えて見ると、琳琅と容若の物語としても成立するほどにこの二人の関係もしっかり描かれているので、皇帝と琳琅の話、というよりも、琳琅がいたあの頃の物語、といった感じがします。

 

ハウィック・ラウ(劉愷威)が皇帝を演じ、ヒロイン鄭爽よりもさらに若い息子のような張彬彬が容若を演じるという組み合わせも良かったです。ハウィック・ラウは時折おじさんパワーを発揮するのですが、皇帝が単調にならなかったのはハウィックさんのおかげ。アクションお披露目シーンはなぜかちょっと笑えるのですが、若者張彬彬とは一線を画する出来栄えでさすがベテランの演技でした。一方の張彬彬は、容若を演じたことで張彬彬が魅力的に見え、張彬彬だからこそこの容若になるという、双方向に効果的なパターンだったと思います。この人のどこか影ある雰囲気と、それとは正反対の今どきの若者感が、とてもいい具合に容若を色づけてくれました。

 

琳琅ははっきりしない部分も多く、見せ方によっては見る側がいら立ちかねないと思いますが、鄭爽の演技力なのかちょっとした台詞や演出なのか、琳琅のことを、このはっきりしない状態のまま受け入れられました。鄭爽はかわいいです。琳琅の気持ちを描くというより、琳琅を受け身の位置に置き、外から見た琳琅を描いているような感じも良かったのかもしれません。

  

以下、ネタバレあります。

 

 

 

皇帝は太皇太后に琳琅の解放を求めます。しかし太皇太后は応じず、皇帝が自ら未練を断ち切れないならば、皇帝に代わり自分がその思いに決着をつけると告げます。

太皇太后の懸念は、皇帝が琳琅に執心のあまり、清国の皇帝として過ちを犯し、暗君となることです。もし、皇帝が適切に時局を見極める賢明な君主でいられたのなら、たとえ琳琅が皇帝を欺く大罪を犯していても、活路を見出す機会を与えてくれたことでしょう。太皇太后は、これまで、ずっと同じことを指摘し続けていました。でも皇帝は、琳琅に執着するばかりだったのですよね。

 

太皇太后は、琳琅に自害を命じます。それを伝えに来たのは恵妃。8年前には琳琅を救い、今は自害を伝えます。容若も皇帝も傷つけた琳琅に姉と呼ばれることを拒みながらも、来世は幸せな家に転生を、と伝える恵妃は、理性的であるがゆえの厳しさがありますが、優しい人です。

 

恵妃が去り、まさに琳琅が自害しようとするそのとき、皇帝が駆けつけ救出しました。

皇帝のもとで目覚めた琳琅は、兄の言葉どおり皇帝と幸せになる決意を伝えます。でも、時すでに遅し。

皇帝が琳琅を救出することができたのは、琳琅とは二度と会わずすべてを忘れるという誓いを立てたからでした。太皇太后は本当に一貫しています。皇帝が明君たることができるなら、琳琅の命を奪うことはしない、義理堅く情け深い良い皇帝である一面を認め、一夜限りの逢瀬を見守ります。

皇帝がもっと早くに皇帝として適切な振る舞いができていれば、ここまでになることはなかったのに。

 

琳琅は、良嬪になりました。女官から、皇帝が琳琅を救うために琳琅とは一生会わないと誓ったことを聞かされます。皇帝に会えないとはいえ、皇帝の妃嬪である以上、ここから出ることもできません。

 

塞ぎ込んだ琳琅のもとを、容若が訪れました。

自分を大切にと言う容若に、皆去って独りぼっち、あなたも来なくなると答える琳琅。その言葉をすぐさま否定し、傷を治したらまた来ると返す容若。この二人の関係は、変化がありながらも変わらぬ何かがあり、その絆はずっと続いているように思えます。

琳琅が、自分のせいで容若が大けがをした、あなたも体を大切にして、と言った時、容若は珍しくその言葉を肯定しました。「良児」の命は自分が救った、しっかり生きると約束して、たとえ別れても君が元気でいることを願っている、傷が癒えたらまた会いに来る。容若はなんとよく琳琅を解しているのでしょう。琳琅は、自分の命は容若、兄、皇帝が救ってくれたもの、その恩に報いるために生きていくと答えます。琳琅を誰よりも理解し、守り、支え続ける容若。容若と琳琅があのまま結ばれていたら、そんなことを考えていた矢先、容若が咳込み、喀血してしまいました。容若…。

 

驚いたことに、琳琅は皇子を出産しました。

小徳子が嬉しそうに皇帝のもとに子供を連れてきます。名は胤禩。皇帝がかつてこの名を書いていましたね。胤禩と言えば、康熙帝の第八皇子。少なくとも上に7人男児がいたわけで、琳琅琳琅言っていてもすでに子供はたくさんいたのですね。第八皇子と言えば、若曦の八爺。琳琅の子供があの八爺だと思ってみても、不思議と違和感がありません。

 

詩を書きながら琳琅との日々を思い出す容若。

幼い頃の納蘭家での楽しい日々、相思相愛であった幸せな日々、そして宮廷での再会。自分の名前を容若に訪ねる幼き日の琳琅と、「花心を濡らす雨の滴 琳琅の粉面に涙を注ぐが如し 君の名は衛琳琅だ」と答える幼き日の容若。この様子が、エンディング曲の「初見愛已晚」が流れる中、今の容若の姿と交互に映り続けます。容若派の永久保存版。“出会うのが遅すぎた”、遅すぎたのは容若なのか、誰なのか。

容若は「琳琅」の文字を書いたところで喀血し、その場に倒れてしまいました。時を同じくして、梨の花を生けた花瓶を落とし指を切る琳琅。女官に何かを告げられあと、梨の花を手に取り、花びらに手をあてて、容若の名前を口にします。その梨の花びらに琳琅の血がにじむ、この二人を象徴するようです。

 

容若の死を知らされた皇帝は、思いを発散させるかのように剣を振ります。

幼い頃、身を挺して皇帝を守った容若に、死んではならないと話したこと、力試しをし合った日々、皇帝にとって容若は、唯一の親友でもありました。どのような局面にあっても、容若の忠義心と皇帝の信頼が変わらなかったことは、琳琅を含む3人の独特の関係を生んでいたように思います。

皇帝は、もう剣の稽古はしないと剣を手放してしまいました。

 

琳琅は、琴の糸が切れたことで、ふと皇帝を思います。雪の中、塀越しにお互いを思い、涙する二人。この間流れる皇帝ハウィックの歌う主題歌「無終」の歌詞が、そのまま二人の関係を表します。

 

ここで一気に40年後。康熙帝は長生きですね。名君と言われるようになった皇帝と孫息子である少年。この世の物はすべて手放したという皇帝が唯一手放せなかったのは琳琅。封印するしかなかった琳琅との日々をずっと心に留め、皇帝として立派に勤め上げ、人生の幕を下ろしました。

 

皇帝にとっては、これで良かったはず。太皇太后の言葉が届かないほどに女性に執着していては明君への道は険しいです。つらくとも、琳琅とのことを心に秘め、争いが起きるほどに世継ぎ候補もたくさんでき、名君と呼ばれるまでになりました。もっと早くに距離を置けていれば、仲睦まじい日々を送ることができた気がしますが、あれだけ指摘されても苦言が耳に届かなかったのですから、こうなるしかなかった気もします。

 

では、琳琅は。琳琅にとっては、もっと早くに皇帝のもとを離れ、皇帝の幸せを願いつつ別の道を歩むことの方が幸せだった気がします。恨む気持ちがあっても、遠く離れることで新たな幸せを掴めたかもしれません。琳琅は、皇帝を愛していましたが、皇帝がすべて、にはなれないのですよね。ここが皇帝と違うところです。

 

そして容若。容若は、まさに琳琅の住む庭に咲く梨の花のようでした。この梨の木は、琳琅のために皇帝が植えたものですが、琳琅と容若の思い出の花。琳琅が身に着けていた首飾りも梨の花、二人が逢瀬の際の合図に使ったのも梨の花。1人になってしまった琳琅が梨の花を生けますが、常に側にあり、年に一度花を咲かせて琳琅を慰める姿は容若と重なります。でも、この木を庭に植えたのは皇帝。皇帝が先なのか、それとも容若が先なのか。皇帝と容若は、表と裏のような、そんな存在にも見えます。

 

誰も「ハッピーエンド」ではありませんでした。それでも、失望感はありません。皇帝と引き裂かれ、子供も手放し、守り続けてくれた容若も失ってしまった琳琅は何を支えに生きたのか。気がかりではありますが、そこを一切見せない終わり方は良かったと思います。

 

おとなしい鄭爽は新鮮でした。そして張彬彬。張彬彬の容若にすっかりはまりましたが、容若以外ではどのような雰囲気なのか。別の作品を見てみたいです。